社員寮と社宅の違い
社員寮と社宅ではどこが違うのか、それぞれの定義や形態について解説しています。
単身者向けとファミリー向けの違い

社員寮と社宅の違いはどこにあるのか疑問を持つ人がいるかもしれませんが、実はこの2つに明確な規定が存在するわけではありません。
どちらも会社が福利厚生の一環として、従業員のために用意した住居であることは共通していますし、近隣の賃貸住宅より安い賃料で借りられるという点も同じです。社員寮と社宅を区別していない会社では、両方とも社宅と呼んでいる場合もあります。
一般的な違いをあえて説明するならば、社員寮は単身者向けで、社宅はファミリー向けと分類することができます。
社員寮は一人部屋だけでなく、一つの部屋に数人で住むルームシェアタイプがあったり、単身で暮らしていても不自由が無いように、食堂が付いている場合があります。
また寮内に遊技場があって社員同士で遊んだり、コミュニケーションができるなど一般の賃貸住宅にはない暮らしが可能なのも特徴の一つです。
一方、社宅は民間のマンションやアパートと形態的にはほとんど変わらないと考えてよいでしょう。社員寮のように共同の食堂やお風呂、遊技場はありません。
また家族向けの社宅であれば、当然ながらワンルームではなく2DKや3DKといった広い部屋に住むことができます。
社宅と社員寮の比較
入社や転勤の場合、新しい業務に対して不安を抱えている社員も少なくありません。同様に、社宅・社員寮への入居に対しても不安であり、中には自分で借家を手配することも視野に入れている人もいるのではないでしょうか。
会社の福利厚生である以上、全体的に見てメリットの方が多くなるよう配慮されていますが、一方でデメリットも確かに存在します。
社宅と社員寮でどのようなメリット・メリットがあるのか、詳しく見ていきましょう。また、実際に導入した企業の事例も紹介します。
社宅のメリット
安い出費で住むことができる
多くの社宅はマンションやアパートを借り上げたり、自分で探した住居の家賃を会社側が一部負担したりする形式を取っています。家賃を全額支払うことがないため、金銭的負担を抑えられるのがメリットです。
また、引っ越しにかかる費用や更新手続きも一般的には会社側の負担となります。管理費・共益費まで支払ってくれる場合もあるので、個人の負担が減り社員のモチベーションアップにも繋がるでしょう。
所得税・社会保険料が安くすむ
社宅の場合、家賃手当を差し引いた自己負担額は会社の給与から天引きされるのが一般的です。給与明細に記載される額面の給与を元に、所得税や社会保険料は算出されます。その分出費を安く抑えられるのがメリットです。家賃手当として別途支給される場合は、逆にこれらの税金がアップします。
また賃料相当額の半額以上を社員が支払っている場合、会社負担分の所得税が発生しません。所得税法にて定められており、所得税がない分家賃の負担を軽減できます。ただし、役員の場合は賃料相当額を負担していないと課税されるのでご注意ください。
参考:国税庁公式HP No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2597.htm)
参考:国税庁公式HP No.2600 役員に社宅などを貸したとき(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2600.htm)
社会保険についても、会社負担分の課税はありません。社員であれば、所得税と社会保険料の両方を抑えて生活できます。
社員の満足度貢献にも繋がるため、会社側にもメリットがあるという訳です。
通常のマンションやアパートに住むことができる
共同生活施設である社員寮とは異なり、社宅は通常のマンションやアパートを提供される場合がほとんどです。トイレやお風呂、キッチンコンロなどが整備された環境に住めます。
特に家族で住む場合は、居住環境の面でストレスを抱える心配が比較的少ないと言えるでしょう。また、管理人が何かと面倒をみてくれるような住居もあります。
社宅のデメリット
住居を自由に選ぶことができない
会社から指定された社宅に住む場合、当然自由に物件を選ぶことができません。また、自分で物件を選べる場合でも家賃の上限金額が指定されているケースがほとんどなので、納得のいく物件に住めるとは限りません。
家族の人数を考慮されていない場合も多く、子供の多い家族であれば窮屈に感じてしまう可能性もあります。
家財道具や家電を揃えなくてはならない
あらかじめ備え付けられている家財道具や家電が使いづらいと、買いなおす必要があるかもしれません。家財道具や家電が何もない場合もあるため、自分で家電や家財を用意しなければならないのが難点です。経費で購入したい場合、一度会社に相談してみるのが良いでしょう。
家賃の軽減年数や年齢に制限がある
家族住まいが前提のため、社員寮と比較すると長期間会社側が一部家賃を負担してくれます。ただ、一定の年数を過ぎると家賃を全額負担しなければいけません。また、入居するのに年齢の上限が定められている場合もあるため、確認が必要です。
社宅を導入した事例
製造業 (従業員数:約2,500名)
これまでの課題
福利厚生を手厚くし、社員のモチベーションアップを図るために住宅手当制度を採用していたA社。全社的に経費削減を迫られたため、住宅手当についても見直しを検討しました。
効果
住宅手当から借り上げ社宅へと制度を変更したところ、全体で3,800万円の費用削減に結びつく結果に。制度変更にかかる費用は削減額の一部を事業資金にして、アウトソーシング化しました。また経費削減だけではなく、近隣住民とのトラブルも減少したそうです。
社員寮のメリット
自分で借りるより家賃が安く済む
自分で住居を手配する場合、敷金や礼金・仲介手数料・保証会社の保証料などといった初期費用を負担しなくてはなりません。場合によっては家財道具や家電も、ほぼ一から購入する必要があります。加えて、管理費・駐車場代・光熱費もかかるのが難点です。一方で社員寮の場合、敷金・礼金・保証会社の保証料は会社の負担となります。
また、比率は会社によって異なりますが、毎月の使用料(家賃)も一定額会社が負担してくれるのもメリットの1つです。自身で住居を借りるのと社員寮への入居、同じ立地条件で部屋を借りることを考えれば社員寮のほうが安く済みます。
栄養バランスが配慮された食事を取ることができる
社員寮は自室で調理できる環境がない代わりに、食堂を導入しているケースがあります。
自分で食事を用意する場合、忙しい時にバランスの取れた食事を作るのは難しいでしょう。ただ、外食やコンビニ弁当だと出費がかさむ上に栄養バランスも偏ってしまうかもしれません。
食堂であれば、栄養バランスを考慮したメニューを提供してくれます。また、料金も安めに設定されている場合が多く、金銭的負担を軽減できるのメリットです。
自分で食事を手配する手間も含めて考えると、食堂を有効活用するほうがお得であると言えます。
身近な環境に社員がいる
生活しているとささいなトラブルがあったり、悩みを抱えてしまったりなどということが起こりえます。特に新入社員の場合、仕事に慣れていないためこのような機会が多いはずです。
こうした不安も、社員が身近にいるため一緒になって解決してくれるかもしれません。また、体調が優れず動けなくなる、倒れてしまうなどという不測の事態に気付いてもらいやすいのも社員寮のメリットといえるでしょう。
部署間や上下関係の垣根を超えた付き合いができるため、仕事でのコミュニケーションも自然と取りやすくなります。
社員寮のデメリット
居住年数や年齢に制限がある
多くの会社は、社員寮入寮条件を『新卒~〇年目までの単身者』と定めています。会社の経費負担削減や社員寮内の居住スペースを確保しなくてはならないのが理由です。
そのため、居住してから一定年数が経過した場合、強制的に社員寮を立ち去らなくてはいけません。住宅手当のない会社は退寮してからの家賃負担が増えるため、不安を抱える社員もいるでしょう。特例で年次に関係なく異動者を受け入れる場合もありますが、あくまで住居を探すまでの一時受け入れです。『○ヶ月以内には退寮すること』という条件が課されます。
施設の老朽化が進んでいる
福利厚生の一環で社員寮が設けられていますが、あまり経費を回さないようにしている会社も少なくありません。そのため、著しく老朽化の進んだ社員寮に住まざるを得ないケースもあります。
壁が薄く隣人に声が丸聞こえになってしまったり、廊下を歩く音が響いてしまったりするため、神経質な人には耐えがたい環境であることもあるでしょう。
また、衛生面での配慮が行き届いていない場合、体調を崩してしまう可能性もあります。
プライベートが制約される
先ほどはメリットとして挙げましたが、身近に社員がいることはデメリットにもなりえます。社員寮はあくまで共同生活をするための場所なので、自由度は社宅と比べて低いと感じるかもしれません。
食事やお風呂の時間はたいてい決められているので、仕事が遅い場合などは自分で食べ物を調達する必要があります。休日に外出する際は寮内で顔を合わすことがあるため、あまりプライベートを知られたくない人にとってはデメリットになるでしょう。
友人や恋人の出入りを禁止している社員寮もあるので、人によっては窮屈な思いをするかもしれません。
社員寮を導入した事例
情報・IT関連企業 (従業員数: 約800名)
これまでの課題
社有寮、借り上げ寮を保有していたB社。借り上げ寮のオーナーから、また一般の賃貸住宅に戻したいと要望されたため、入居者を一挙に転居させる必要が生じました。
効果
他の一般賃貸やマンスリーマンションなども検討した結果、食事や管理人を付けたサービス提供は続けるべきとなり社有寮を刷新。『物件探しで複数の不動産屋を回る必要がなくなった』『新卒社員の入寮などで引っ越しがある際、管理人が荷受けをしてくれるので、会社総務の担当者が出向かなくて良くなった』などと評判は良いそうです。
家賃はどの程度と考えればよいか
家賃に関しては会社によって違いますし、社員寮や社宅の賃料を公開していることは少ないので一概には言えませんが、周辺の賃料相場より安いことは確実と言えるでしょう。
社員寮の場合は平均すると、12,000円~13,000円程度(2016年時点)が多いと言われていますが、食堂がある場合でも、食費に関しては別途かかると考えてよいでしょう。
参考:プロフェッショナルネットワーク 独身寮・社宅に関する実態調査について(https://service.jinjibu.jp/article/detl/rosei/1476/)
社宅に関しては、最近借り上げ社宅の割合が高くなっていますが、この場合は共益費用等を含む月額賃借料の◯◯%と定めているパターンが多くなっています。
割合は会社が自由に決めることができますが、おおむね50%程度が相場(2020年時点)と言われています。あまり安くし過ぎると給与課税の問題が出てきますし、高い家賃を設定してしまうと社宅の意味が無くなってしまうので、その間の額を基準として設定されます。
参考:マクシブ総合会計事務所 社宅家賃の本人負担額について(https://maxiv.blog/社宅家賃の本人負担額について/)