社宅制度を職種で分ける
より企業に対してロイヤリティの高い従業員を優遇したい、というのはどの経営者も考えることではないでしょうか。このページでは社宅利用できる社員を職種・職域などで区別することの是非について紹介・解説します。
適用規定が大きく異なると差別制度となる
福利厚生は全従業員に対して平等・公平に与えられるべきものであるという考え方があるため、本社勤務・営業所勤務や総合職・一般職などのように、職種の違いにより大きな差が生まれるような規程は職業差別に該当する可能性がありますので注意が必要です。
総合職のみに社宅制度を適用した事例
ガラス大手AGCの子会社であるAGCグリーンテック(東京)では、全員男性である総合職だけに社宅制度を認めることが男女差別に該当するとして、勤務している一般職の女性から損害賠償請求訴訟を起こされました。東京地裁で行われたこの裁判の結果は、「間接的な男女差別にあたる」として約370万円の支払を命じる判決が出ています。
判決によると同社の総合職は全員男性で20名・一般職は6名中5名が女性であり、総合職のみに社宅制度が認められていました。これは性別によって取り扱いを変える直接的な差別ではないとしながら、「事実上男性のみに適用される福利厚生措置で、女性に不利益を与えたことに合理的理由はない」と指摘し経済的恩恵の格差が大きいことから間接差別にあたると認めました。
出典:https://www.jiji.com/jc/article?k=2024051300781&g=soc
職種で異なる規定を設けるには
労働条件の違いはあり得る
職種によって労働条件が異なること自体はおかしな話ではなく、例えば事務職と現場仕事では業務内容が大きくことなりますのでその取り扱いに違いが出ることは自然なのではないでしょうか。そのため「区別」と「差別」は分けて考えなければいけません。労働条件に違いがあることに違和感を覚えたら、まずはその理由を確認するようにしましょう。
同一労働同一賃金
近年、「同一労働同一賃金」という考え方が浸透しつつあり、正規・非正規による賃金や待遇などの格差をなくす動きが増えつつあります。これは無期・有期も含めたどの労働者であったとしても、企業・団体内で同じ仕事をしていれば同一の賃金を支給すべきという考え方であり、不合理な待遇差の解消を図るためのものです。
たとえば同じ仕事・責任を持っているにも関わらず「正規雇用でないこと」を理由に社宅制度を利用できなくしたり、手当や昇給がなかったりというようなケースが問題とされるような事例に該当します。
「大きな差」がポイント
社宅制度を含めた各種制度や待遇について会社の方針によって判断が変わることもあるため、「違いがあるから」といって一概に差別と断定することはできません。ポイントとしては「大きな差」があるかどうかであり、不合理な理由により大きな格差を発生させるような待遇の違いがある場合には問題である可能性が高くなります。企業側としては判断が難しいところですが、明確かつ合理的な理由に基づく取り扱いの違いかどうかを確認するようにしましょう。
客観的な視点が重要
福利厚生制度を充実させれば従業員満足度や企業に対するロイヤリティの向上が期待できますが、待遇の違いに不満を持たれてしまうとマイナスの影響を及ぼしかねません。規程づくりは大変ですが、平等・公平の観点を持ちながら検討するようにしましょう。