社宅で節税するなら
そもそも社宅とは?住宅手当との違い
社宅制度とは、自社で従業員が住む住居を保有・管理する制度であり、賃貸物件の家賃や住居費を直接支援する住宅手当とは根本的に性質が異なります。
また、社宅制度は企業が必要経費によって居住施設を管理し、家賃の一部を従業員の代わりに負担するといったシステムです。一方、住宅手当はあくまでも現金による支給であり、支給額もまとめて給与の一部として考えられることが重要です。当然ながら給与には所得税や住民税といった税金が課せられるため、住宅手当を手厚くすればするほど税金として国へ取られる金額が多くなり、社会保険料の会社負担も増大していくことになります。
社宅と住宅手当、どちらのほうが節税効果を期待できる?
結論からいえば、社宅は経済的なメリットを期待できます。
まず、社宅を企業経営における必要経費として認めさせるには、一定の条件をクリアしなければなりません。一方、住宅手当は全額がそのまま給与の一部として計上されるため、経費として算入しやすいという点は事実です。
また、一定条件をクリアした上で、社宅管理と住宅手当にかかるコストが全く同額であった場合、企業にとって経費として計上できる金額はどちらも同じになるため、企業の節税効果として見れば違いがないことも重要です。
ただし、住宅手当が給与の一部として課税対象になる反面、社宅として低価格の賃料で物件を提供できれば、従業員の所得税や住民税といった課税を抑えつつ生活費も軽減できることになります。加えて企業の社会保険料負担も少なくなることがポイントです。
つまり社宅はトータルでメリットを期待できるといえます。
そのほか社宅導入によって得られる節税効果
賃貸料相当額を経費として損金にできる
例えば家賃相当額10万円の賃貸物件があったとして、そのうち5万円を企業が社宅管理の経費として支払い、実際に暮らす従業員が残りの5万円を負担したとしましょう。この場合、企業は支払った5万円を経費として計上して、課税対象の売上額から差し引くことが可能です。
売上額が減れば課税対象額も減るため、結果として節税効果を期待できます。また、金額によっては税率が変わったり免税事業者として認められたりすることもあるでしょう。
社宅を購入した場合は減価償却費を計上できる
自社で社宅として利用する物件を購入したり新築したりした場合、そのための費用は減価償却費として分割して毎年の経費に計上できます。
一時的に大きな経費として計上するのでなく、長期間にわたって経費を計上し続けられるからこそ、長期の節税効果を目指せることは重要です。
なお、減価償却の期間は物件の法定耐用年数によって異なります。
社宅購入時の借入金利を経費として計上できる
社宅用の物件を購入する際に金融機関から融資を受けていれば、その借入金にかかる金利分を経費として計上することが可能です。
金利の支払いは融資金の完済まで続きます。そのため、金利は企業の経済状態にとってマイナスの影響を与える反面、きちんと経費として計上することで、長期的な節税効果を高めて負担を軽減するためにも役立ちます。
社宅を経費として計上するための条件
賃料相当額の50%以上を従業員から徴収する
賃貸物件を借りて社宅として利用する場合、従業員のためにと家賃を無料にしてしまうと、社宅を経費として扱えません。
社宅を経費として計上するには家賃を無料にせず、従業員から一定金額を徴収しなければならず、その基準が一般的に「家賃相当額の50%以上」となります。
なお、家賃相当額の50%よりも安い金額しか従業員から徴収しなかった場合、家賃相当額と従業員の支払った金額の差額が「給与の一部」として扱われてしまうことに注意してください。
条件によって家賃無料で良いケースも
緊急出動や夜勤のある業種(医療従事者や守衛など)、職務上どうしても自宅からの通勤が困難な人など、やむを得ない事情がある場合に職場近くの社宅を貸与する場合、家賃を無料にしても経費になる場合もあります。
ただし、具体的にどのようなケースが課税対象外として判断されるかは状況や条件などによって異なるため、安易に自己判断で家賃を無料設定することは危険です。
社宅制度を導入する2つのパターン
従業員(一般社員)用の社宅の場合
従業員用の社宅を導入する場合、一般的には既存の賃貸物件を社宅として借り上げて、そこへ従業員を居住させ、家賃相当額の一部を徴収するといった流れになります。
企業は経費として社宅管理の費用を計上できる上、福利厚生の充実を図れることも重要です。
従業員(一般社員)側のメリット
従業員が一定以上の家賃相当額を支払っている場合、給与として課税される金額や社会保険料などを抑えることができるため、手取りの割合を増やすことができます。また単純に物件を借りるための費用が安くなるため、生活費としての支出を減らしてコストパフォーマンスを高められることもメリットです。
その他、自社が管理する物件に住めるという安心感や、他の入居者との住居トラブルを回避しやすいといったこともメリットでしょう。
企業側のメリット
企業が社宅を導入する最大のメリットは、社宅の費用を経費として計上して節税効果を高めつつ、従業員の福利厚生を拡充できるという点にあります。また、事業安定性を高める上で効率的な物件を見つけて、そこへ従業員を住まわせることができれば、日常の通勤や非常時の対応も簡便化し、コストだけでなくリスクを低減できることは見逃せません。
その他、従業員へ支払う給与が増えないため、労使折半として負担しなければならない社会保険料の額も抑えられます。
従業員(一般社員)用社宅の家賃はいくらに設定すべき?賃貸料相当額の計算方法
一般社員のための社宅費用が経費として認められるために、「賃料相当額の50%以上」を従業員から徴収しなければならないことは、すでに上記で説明した通りです。
ただし、賃料相当額の算出には明確な計算方法が存在します。
具体的には以下の3つの基準に関する金額の合計が、賃料相当額です。
- 建物の固定資産税基準:当該年度の建物の固定資産税の課税標準額×0.2%
- 面積基準:建物の総床面積(㎡)÷3.3(㎡)×12円
- 敷地の固定資産税基準:当該年度の敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%
例えば、建物の固定資産税の課税標準額が1千万円であれば、まず2万円が1つめの基準となります。その上で、物件の面積が330㎡であれば2つめの基準額は1200円となります。さらに土地の固定資産税の課税標準額が1千万円であれば、3つめの基準額は2.2万円となり、全ての合計金額として43,200円が家賃相当額になるといった計算です。
そのため、従業員の家賃は約2.2万円以上に設定しなければなりません。
従業員に社宅を無償で貸し出すことは可能?
特定の条件によって無償家賃が認められない場合、家賃を無料にすると、家賃相当額がそのまま従業員への給与の一部として見なされます。
つまり住宅手当と同様にその分の金額へ税金がかかり、社会保険料も高くなります。
役員社宅の場合
一般社員の社宅と異なり、役員社宅の費用を経費として計上する場合も、役員から毎月一定以上の家賃を受け取っていれば問題ありません。
ただし、役員社宅の場合、家賃相当額の計算方法が複雑になり、物件の規模や法定耐用年数によって算出基準が異なります。
役員側のメリット
役員社宅を利用すると、単純に物件の賃料の一部を会社が経費として負担してくれるため、給与の手取額を増やしながら好条件の物件で暮らせるようになります。また、物件管理について会社や管理代行会社がきちんとケアしてくれるため、トラブルが発生しても迅速に対応してもらいやすいことは強みです。
企業側のメリット
一般社員用の社宅を経費で管理する場合と同様に、役員社宅の場合でも、企業が適切な条件を満たした上で支払った家賃分は経費として計上できます。そのため事業売上げから経費を差し引いて節税対策を追求できることはメリットです。
また、給与として見なされる金額を下げられるため、社会保険料の負担を抑えられることも重要です。
役員社宅の家賃はいくらに設定すべき?賃貸料相当額の計算方法
役員社宅の場合も、賃料相当額の算出方は以下の3つの基準額を合計した額となります。
- 建物の固定資産税基準
- 面積基準
- 敷地の固定資産税基準
ただし、それぞれの基準額の算出式が、物件の構造や規模(面積)によって変化することが役員社宅の特徴です。
具体的には、役員社宅の場合、物件の大きさによって以下の3つの「社宅規模」が分類されます。
- 小規模住宅:法定耐用年数30年以下で床面積132㎡以下、もしくは法定耐用年数30年超で床面積99㎡以下
- 小規模住宅以外の住宅:小規模住宅の面積基準をそれぞれの法定耐用年数で上回る物件
- 豪華住宅:床面積240㎡超の住宅で諸条件を勘案して決定。条件によって240㎡以下の面積でも該当する場合あり
家賃相当額の計算方法は社宅規模やその他の条件によってさらに細分化されるため、詳しくは専門家へ相談して確認しましょう。
税金対策のはずが手間がかかりすぎて大変!?社宅導入の注意点
社宅制度で節税効果を高められる一方、実際に社宅を維持していくためには費用面だけでなく、物件の管理や入居者のケア、賃貸契約の処理といった様々な業務をカバーしなければなりません。
そのため、単なる費用面の節税効果は得られたものの、実際には担当者の業務負担が増大して、トータルで見ればデメリットばかりが拡大してしまったというケースも想定できるでしょう。
社宅を導入する場合、社宅管理をどのように続けていくのか、社宅管理代行サービスの利用やコストメリットも合わせて総合的に考えることが大切です。