【令和8年10月改正】社宅の現物給与の計算方法
社宅を貸与すると、その経済的利益は「現物給与」として扱われます。社宅担当者が混乱しやすいのは、現物給与の計算方法が「社会保険」と「税務(所得税)」で完全に別物であるという点です。さらに令和8年10月1日からは、社会保険の住宅にかかる現物給与価額の算出方法が「1畳あたり」から「総面積1平方メートルあたり」へ変更されます。計算対象となる面積の範囲も変わるため、これまでと同じ方法では標準報酬月額を誤るおそれがあります。この記事では、社宅の現物給与の計算方法を社会保険・税務の両面から整理し、改正対応まで解説します。
社宅の現物給与とは
現物給与とは、給与のうち金銭以外のもので支給される部分を指します。日本年金機構は、住宅(社宅や寮など)の貸与、食事、自社製品、通勤定期券などを現物給与としています。現物給与にあたるものがある場合は、その現物を通貨に換算し、金銭で支払う給与と合算して標準報酬月額を決定します。
混同されやすいのが住宅手当です。会社が物件を借り上げて社員に貸与するのが「社宅=現物給与」、社員本人が契約した住居の家賃を金銭で補助するのが「住宅手当=現金給与」です。住宅手当は支給額がそのまま報酬に算入されるため、現物給与価額を使った換算は行いません。
社宅の現物給与には「社会保険」と「税務」の2つの計算方法がある
同じ社宅であっても、社会保険と税務では根拠となる法令も計算式も異なります。どちらか一方の計算だけで済ませてしまうと、社会保険料の算定誤りや給与課税漏れにつながります。
| 比較項目 | 社会保険(健康保険・厚生年金保険) | 税務(所得税・住民税) |
|---|---|---|
| 使う金額 | 現物給与価額 | 賃貸料相当額 |
| 根拠 | 厚生労働大臣が定める現物給与の価額(告示) | 所得税法施行令・所得税基本通達 |
| 計算の基礎 | 都道府県別の単価 × 面積 | 固定資産税の課税標準額 ほか |
| 地域差 | あり(都道府県ごとに単価が異なる) | 都道府県別の単価設定はない(物件ごとの固定資産税評価による) |
| 本人負担の扱い | 現物給与価額から徴収額を差し引く | 使用人は賃貸料相当額の50%以上の徴収で課税なし |
| 影響するもの | 標準報酬月額、社会保険料 | 給与課税(源泉徴収) |
【社会保険】社宅の現物給与価額の計算方法
社会保険では、厚生労働大臣が告示で定めた都道府県別の価額を用いて社宅の利益を通貨に換算します。健康保険料・厚生年金保険料の被保険者負担分は「標準報酬月額 × 保険料率 ÷ 2」(労使折半)で計算されるため、現物給与価額の誤りはそのまま保険料の誤りにつながります。
基本の計算式
住宅の現物給与価額は、以下の式で求めます。1円未満の端数が生じた場合は切り捨てです。
- 【令和8年9月30日まで】1畳あたりの価額 × 居住用の室の畳数
- 【令和8年10月1日から】総面積1平方メートルあたりの価額 × 住宅の総面積(㎡)
なお、健康保険組合では規約により別段の定めをしている場合があるため、加入している健保組合の取り扱いも確認してください。
【重要】令和8年10月1日から算出方法が変わる
厚生労働省告示の改正により、食事の現物給与価額は令和8年4月1日から、住宅の現物給与価額および算出方法は令和8年10月1日から適用されます。住宅については単価の改定だけでなく、算出方法そのものが変わる点に注意が必要です。
| 比較項目 | 令和8年9月30日まで | 令和8年10月1日から |
|---|---|---|
| 単位 | 居住面積1畳あたり | 総面積1平方メートルあたり |
| 対象となる部屋 | 居間・寝室・客間・書斎・食事室など居住用の室のみ | 居住する住宅の床面積の合計(総面積) |
| 玄関・台所・トイレ・浴室・廊下 | 含めない | 含める |
| 除外されるもの | 営業用の室(店舗・事務室・旅館の客室など) | 別棟の物置・車庫、共同で使用している部分 |
| ㎡表示の物件の扱い | 1畳=1.65㎡に換算して計算 | 換算不要(総面積をそのまま使用) |
注意したいのは、単価の数字が小さくなるのは「1畳あたり」から「1㎡あたり」への単位変更によるものだという点です。東京の例で1㎡あたりに換算すると2,830円 ÷ 1.65 = 約1,715円で、改正後の1,330円は面積単価としては下がっています。しかし台所・トイレ・浴室・廊下が計算対象に加わることで対象面積が大きく広がるため、多くの物件では現物給与価額が増えます。「単価の数字が小さくなったから保険料も下がる」と思い込まず、物件ごとに再計算しましょう。
主な都道府県の住宅の現物給与価額
住宅の現物給与価額は都道府県ごとに異なります。主な都道府県の価額は以下のとおりです。
| 都道府県 | 令和8年9月30日まで(畳1畳につき) | 令和8年10月1日から(総面積1㎡につき) |
|---|---|---|
| 北海道 | 1,110円 | 530円 |
| 宮城 | 1,520円 | 680円 |
| 埼玉 | 1,810円 | 840円 |
| 千葉 | 1,760円 | 830円 |
| 東京 | 2,830円 | 1,330円 |
| 神奈川 | 2,150円 | 1,010円 |
| 愛知 | 1,560円 | 710円 |
| 京都 | 1,810円 | 830円 |
| 大阪 | 1,780円 | 820円 |
| 兵庫 | 1,580円 | 730円 |
| 福岡 | 1,430円 | 670円 |
参考:(PDF)日本年金機構「令和8年4月から現物給与の価額が改正されます」
計算例:東京の事業所・居住室16畳(総面積40㎡)の社宅
東京に所在する事業所の社員に、居住室部分が16畳(26.4㎡)、総面積40㎡の社宅を貸与しているケースで計算してみます。
- 【令和8年9月30日まで】2,830円 × 16畳 = 45,280円
- 【令和8年10月1日から】1,330円 × 40㎡ = 53,200円
同じ物件でも、改正後は月7,920円増える計算です。この金額を金銭給与に合算して標準報酬月額を決定します。なお、洋間など畳を敷いていない居住用の室は、令和8年9月30日までは1.65㎡を1畳に換算して計算します(26.4㎡ ÷ 1.65㎡ × 2,830円 = 45,280円)。
社員から社宅使用料を徴収している場合
社員から社宅使用料を徴収している場合、住宅については現物給与の価額から徴収額を差し引いた額が現物給与価額となります。先ほどの例で月20,000円を徴収しているなら、次のとおりです。
- 【令和8年9月30日まで】45,280円 − 20,000円 = 25,280円
- 【令和8年10月1日から】53,200円 − 20,000円 = 33,200円
食事の現物給与には「徴収額が現物給与価額の3分の2以上なら食事の供与はないものとして扱う」というルールがありますが、住宅にはこの3分の2ルールは適用されません。住宅はあくまで「現物給与の価額 − 徴収額」で計算する点を押さえておきましょう。
月の途中で入居した場合の日割計算
住宅の現物給与価額は1カ月あたりの金額ですが、月の途中から入居した場合は「1カ月相当の現物給与価額 × 入居日以降の日数 ÷ その月の総日数」で日割計算します(1円未満切り捨て)。東京の事業所で総面積40㎡の社宅に10月11日から入居した場合は、次のとおりです。
- 1,330円 × 40㎡ = 53,200円
- 53,200円 × 21日 ÷ 31日 = 36,038.70…円 ≒ 36,038円
どの都道府県の価額を使うのか
迷いやすいのが、勤務地と社宅の所在地が異なるケースです。現物給与価額は、被保険者の人事・労務および給与の管理がなされている事業所が所在する地域の価額を用います。社宅がある都道府県ではありません。ただし、本社と支店等が合わせて1つの適用事業所となっている場合は、本社・支店それぞれが所在する地域の価額で計算します。派遣労働者は、派遣先ではなく派遣元の事業所が所在する都道府県の価額を使います。
現物給与価額の改正は「固定的賃金の変動」にあたる
見落としやすいのが、随時改定への影響です。現物給与価額の改正は「固定的賃金の変動」に該当するため、「被保険者報酬月額変更届(月額変更届)」の提出が必要になる場合があります。令和8年10月の改正後は、社宅を貸与している被保険者について月額変更の要否を確認しましょう。なお現物給与は給与の締め日を考慮せず、暦月の1カ月分として計算し、その月の金銭給与と合算します。
【税務】社宅の賃貸料相当額の計算方法
所得税では、社会保険とはまったく別の「賃貸料相当額」を使います。社員から受け取っている家賃が賃貸料相当額を下回ると、その差額が給与として課税されます。役員か使用人(従業員)かで取り扱いが異なります。
使用人(従業員)に社宅を貸与する場合
使用人の賃貸料相当額は、次の(1)〜(3)の合計額です。
- (1)その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
- (2)12円 × その建物の総床面積(㎡) ÷ 3.3(㎡)
- (3)その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%
そのうえで、使用人から受け取っている家賃が賃貸料相当額の50%以上であれば、差額は給与として課税されません。無償で貸与している場合は賃貸料相当額の全額が、50%未満しか徴収していない場合はその差額が給与課税の対象となります。たとえば建物の固定資産税の課税標準額が500万円、総床面積60㎡、敷地の固定資産税の課税標準額が300万円の物件では、(1)10,000円+(2)約218円+(3)6,600円=約16,818円が賃貸料相当額です。社員から月8,409円以上を徴収していれば給与課税は生じません。
ただし、看護師や守衛など、業務の性質上どうしても勤務場所を離れて住むことが困難な使用人に社宅を無償で貸与する場合は、給与として課税されないケースがあります。また、現金で支給する住宅手当や、社員本人が直接契約している物件の家賃を負担する場合は社宅の貸与とは認められず、給与として課税されます。
役員に社宅を貸与する場合
役員の場合は、社宅の規模によって計算方法が変わります。まず「小規模な住宅」に該当するかを、法定耐用年数30年以下の建物は床面積132㎡以下、30年を超える建物は99㎡以下で判定します。区分所有の建物は、共用部分の床面積をあん分して専用部分に加えたうえで判定します。小規模な住宅に該当する場合の賃貸料相当額は、使用人と同じ(1)〜(3)の合計額です。
小規模な住宅に該当しない場合、自社所有の社宅では「建物の固定資産税の課税標準額 × 12%(法定耐用年数30年超は10%)」と「敷地の固定資産税の課税標準額 × 6%」の合計額の12分の1が賃貸料相当額です。借り上げ社宅の場合は、この金額と会社が家主に支払う家賃の50%とを比較し、いずれか多い金額が賃貸料相当額となります。なお「豪華社宅」に該当する場合は、時価(実勢価額)が賃貸料相当額となります。豪華社宅かどうかは、床面積240㎡超のもののうち取得価額・支払賃貸料・内外装の状況などを総合勘案して判定され、240㎡以下でもプールなど役員個人のし好を著しく反映した設備がある場合は該当します。
なお、使用人にある50%ルールは役員にはありません。役員から賃貸料相当額の全額を受け取っていなければ、その差額が給与として課税されます。
社宅の現物給与の計算でよくあるミスと改正への備え
社宅担当者が実務で誤りやすいポイントは、次のとおりです。
- 社会保険の現物給与価額と、税務の賃貸料相当額を同じものとして計算している
- 令和8年10月以降も、これまでどおり1畳あたりの単価で計算し続けている
- 令和8年10月以降の計算で、台所・トイレ・浴室・廊下を面積から除外してしまう
- 社宅所在地の都道府県の価額を使ってしまう(正しくは人事・労務・給与を管理する事業所の所在地)
- 住宅の現物給与に、食事の「3分の2ルール」を当てはめてしまう
- 住宅手当を現物給与として換算してしまう
- 役員社宅に使用人の50%ルールを適用してしまう
令和8年10月の改正前に確認しておきたいこと
- 各物件の「総面積(㎡)」を賃貸借契約書や重要事項説明書で確認する
- 別棟の物置・車庫、共同使用部分が総面積に含まれていないか確認する
- 改正前後の現物給与価額を試算し、社宅使用料の徴収額を控除した金額を再計算する
- 月額変更届の提出が必要となる被保険者を洗い出す
- 加入している健康保険組合の規約に別段の定めがないか確認する
- 改正内容と保険料への影響を被保険者本人へ周知する
- 社宅管理代行会社を利用している場合は、全物件の総面積データの抽出と改正後価額の試算を依頼する
社宅の総面積を正確に把握できていない企業ほど、改正対応の負荷が大きくなります。物件数が多い場合は、早めに契約書類の棚卸しに着手しましょう。社宅管理代行会社に委託していれば、総面積を含む物件データはシステム上で一元管理されているため、改正後の試算まで一括で対応できます。
改正対応と社宅実務をまとめて効率化するなら社宅管理代行会社へ
社宅の現物給与は、社会保険と税務の二重の計算が必要なうえ、物件ごとの総面積や本人負担額、勤務地の都道府県まで正確に管理しなければなりません。物件数が多い企業や拠点が全国に分散している企業では、社宅情報が拠点ごとに散らばり、計算の前提となるデータをそろえるだけで時間がかかりがちです。
こうした課題を解決する近道が、社宅管理代行会社の活用です。物件の手配から契約、契約時費用の立替払い、入居中の管理、貸主への家賃送金、更新・解約時の精算、原状回復費の精査、年末の支払調書の作成までを一貫して任せられます。これらの業務はシステム上で一元管理されるため、物件情報・契約内容・総面積・本人負担額といったデータが常に整った状態で維持されます。令和8年10月の改正のように全物件の総面積を洗い直す必要が生じても、対象データを一括で抽出できます。
社会保険の届出や税務申告は、社労士・税理士が担う専門領域です。社宅管理代行会社は、その前提となる物件ごとの総面積・契約内容・本人負担額を整った形で提供できるため、士業との連携もスムーズに進みます。社宅実務そのものを代行会社に任せることで、総務・人事担当者は制度設計や規程の見直しといった本来注力すべき業務に時間を使いやすくなります。
まとめ:社会保険と税務、2つの計算を分けて押さえる
社宅の現物給与は、社会保険では「都道府県別の現物給与価額 × 面積」、税務では「固定資産税の課税標準額をもとにした賃貸料相当額」と、まったく異なる計算方法で算出します。この2つを混同しないことが、正しい実務対応の出発点です。
そして令和8年10月1日からは、住宅の現物給与価額が「1畳あたり」から「総面積1平方メートルあたり」へ変わり、台所・トイレ・浴室・廊下も計算対象に加わります。単価の数字が小さくなっても対象面積が広がるぶん現物給与価額が増える物件が多いため、施行前に全物件の総面積を確認し、改正後の金額を試算しておきましょう。あわせて、月額変更届の要否確認と被保険者本人への周知も忘れずに進めることが重要です。

