社宅退去のトラブル
一般的な賃貸住宅であっても退去時にはさまざまな手続きが必要ですし、清掃や原状回復などといった問題でトラブルに発展することも少なくありません。不動産会社であればそういった対応にも慣れているかもしれませんが、社宅の場合には企業担当者はそれを専任としていないケースも多いため、どう対応すればいいか迷う時があります。
社宅退去時のよくあるトラブル
国土交通省がまとめた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では「賃貸人・賃借人の修繕分担表」が定められており、退去時の原状回復についてどちらが負担すべきかが示されています。
床(畳・フローリング・カーペットなど)
賃貸人の負担となるもの
- 畳の裏返し、表替え(特に破損していないが、次の入居者確保のために行うもの)
- フローリングのワックスがけ
- 家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡
- 畳の変色、フローリングの色落ち(日照、建物構造欠陥による雨漏りなどで発生したもの)
賃借人の負担となるもの
- カーペットに飲み物等をこぼしたことによるシミ、カビ(こぼした後の手入れ不足等の場合)
- 冷蔵庫下のサビ跡(サビを放置し、床に汚損等の損害を与えた場合)
- 引越作業等で生じた引っかきキズ
- フローリングの色落ち(賃借人の不注意で雨が吹き込んだことなどによるもの)
壁、天井(クロスなど)
賃貸人の負担となるもの
- テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)
- 壁に貼ったポスターや絵画の跡
- 壁等の画鋲、ピン等の穴(下地ボードの張替えは不要な程度のもの)
- エアコン(賃借人所有)設置による壁のビス穴、跡
- クロスの変色(日照などの自然現象によるもの)
賃借人の負担となるもの
- 賃借人が日常の清掃を怠ったための台所の油汚れ
(使用後の手入れが悪く、ススや油が付着している場合) - 賃借人が結露を放置したことで拡大したカビ、シミ
(賃貸人に通知もせず、かつ、拭き取るなどの手入れを怠り、壁等を腐食させた場合) - クーラーから水漏れし、賃借人が放置したため壁が腐食
- タバコ等のヤニ・臭い(喫煙等によりクロス等が変色したり、臭いが付着している場合)
- 壁等のくぎ穴、ネジ穴(重量物をかけるためにあけたもので、下地ボードの張替えが必要な程度のもの)
- 賃借人が天井に直接つけた照明器具の跡落書き等の故意による毀損
建具等、襖、柱等
賃貸人の負担となるもの
- 網戸の張替え(破損はしていないが、次の入居者確保のために行うもの)
- 地震で破損したガラス
- 網入りガラスの亀裂(構造により自然に発生したもの)
賃借人の負担となるもの
- 飼育ペットによる柱等のキズ・臭い(ペットによる柱、クロス等にキズが付いたり、臭いが付着している場合)
- 落書き等の故意による毀損
設備、その他
賃貸人の負担となるもの
- 専門業者による全体のハウスクリーニング(賃借人が通常の清掃を実施している場合)
- エアコンの内部洗浄(喫煙等の臭いなどが付着していない場合)
- 消毒(台所・トイレ)
- 浴槽、風呂釜等の取替え(破損等はしていないが、次の入居者確保のために行うもの)
- 鍵の取替え(破損、鍵紛失のない場合)
- 設備機器の故障、使用不能(機器の寿命によるもの)
賃借人の負担となるもの
- ガスコンロ置き場、換気扇等の油汚れ、すす(賃借人が清掃・手入れを怠った結果汚損が生じた場合)
- 風呂、トイレ、洗面台の水垢、カビ等(賃借人が清掃・手入れを怠った結果汚損が生じた場合)
- 日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備の毀損
- 鍵の紛失または破損による取替え
- 戸建賃貸住宅の庭に生い茂った雑草
引用元:国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf#page=29
トラブルを避けるため対策
入居前に入念なチェックをおこなう(キズやへこみなど)
入居前になかったキズや汚れなどが退去時に発覚した場合、居住していた住人に対して原状回復義務を課せられる可能性があります。そのため入居時には必ずキズやへこみなどがないか確認しておくようにしましょう。自分だけで確認すると言った・言わないのトラブルになってしまう恐れがありますので、入居者も立会のもと確認し、場合によっては写真などを残しておくのもおすすめです。
従業員へ契約条件の説明をおこなう
社宅に限らず多くのトラブルでは「そんな話は聞いてない」という弁明をされる可能性があります。そのため契約条件の説明に力を入れている事業者は非常に多く、保険や携帯電話・不動産などあらゆる業界で重要事項の説明を徹底しています。従業員を社宅に住まわせる場合も同様であり、重要事項はきちんと説明するようにしましょう。
事前に規定を用意する
物事を曖昧にするとあらぬトラブルに発展する恐れがあります。ベンチャー企業などでは各種規程を定めることなく、もしくは形だけ定めて運用することにより柔軟性を持たせることがありますが、規模が大きくなり従業員が増えると公平性の観点からトラブルやクレームに発展する恐れがあります。社宅に関してもきちんと規程を定め、周知も徹底しておきましょう。
従業員と契約書を交わす
従業員との間における取引・やり取りであっても、きちんと書面を交わして取り決めるようにしましょう。信頼のできる従業員だからなどといって契約関係を曖昧にしていると、いざ何かあった時にトラブルの火種になりかねません。特に家賃負担などで金銭が絡む取決めになりますので、必ず契約書を交わすことをおすすめします。
社宅の退去時にかかる費用相場
原状回復費用
原状回復はその言葉の表す通りもとに戻すためにかかる費用のことをいい、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義されています。
具体的には入居中に汚してしまった箇所や傷つけてしまった箇所等を修復し、入居前の状態に戻すことを求められるものであり、喫煙により壁が黄ばんだ・ニオイがついたなども対象になる可能性があります。
一方で経年劣化などによる汚れや色落ちなどの場合には入居者負担とならないことも多々ありますので、どういった場合に費用が掛かるのかを事前に確認しておくようにしましょう。
原状回復の内容 | 料金相場 |
---|---|
壁や天井の張替え(壁紙) | 45,000円(6畳の部屋の場合) |
壁や天井の張替え(ボード) | 10,000円(小さな穴の場合) |
床材の張替え | 20,000〜60,000円 (1畳あたり) |
水垢やカビのクリーニング | 10,000〜20,000円(浴室/1回) |
キッチン汚れのクリーニング | 10,000〜25,000円(1回) |
ハウスクリーニング費用
退去時には部屋の片づけ・掃除をすることになりますが、場合によっては部屋全体を清掃する「ハウスクリーニング」を依頼しなければならない可能性があります。これは入居時に締結する契約の特約で、ハウスクリーニングにかかる費用も退去時に負担すると決められている時です。
費用水準については一律で決まっているケースと決まっていないケースがありますので、必ず確認しておきましょう。また、場合によっては追加作業の発生により当初想定されていた金額よりも高額になってしまう恐れもあります。
クリーニングしてもらう場所 | 料金相場 |
---|---|
キッチン | 12,000~20,000円 |
浴室 | 12,000円~18,000円 |
トイレ | 6,000円~9,000円 |
洗面所 | 7,500円~10,000円 |
水回り | 15,000円~38,000円(3箇所)/18,000円~75,600円(5箇所) |
床材のクリーニング | 8,400円~15,000円(6畳あたり) |
決まりを定めてきちんと運用
社宅の退去時におけるトラブルも含め、従業員との間でトラブルになる事例は定めるべきものを定めていないことにより発生するケースが多いです。「信頼できる従業員だから」「よくやってくれているから」と特別扱いをしていると、後々関係性がこじれた時に話ができなくなり、会社に大きな損害をもたらす恐れもあると考えられます。そのため、入口段階で決めるべきものはきちんと決め、トラブルが起こらないよう対策しておくことが必要です。