出向者の社宅はどうする?
グループ会社間の人材交流や人材育成などを目的に「出向」を行う際、出向者の住まいをどう手配するか、費用は出向元・出向先のどちらが負担するのかで悩む人事・総務担当者は少なくありません。ここでは、出向者の社宅について、契約の主体や費用負担の考え方、給与課税を避けるためのポイント、出向規程で定めておくべき事項をわかりやすく解説します。
出向とは
出向とは、従業員が自社に在籍したまま、または籍を移して、別の会社で働くことを指します。大きく「在籍出向」と「転籍(移籍出向)」の2種類に分けられ、どちらに該当するかによって社宅の扱い方も変わってきます。
在籍出向
在籍出向は、出向元との雇用関係を残したまま、出向先とも雇用契約を結び、出向先で働く形態です。原則として出向元に戻ることを前提としており、賃金・賞与・退職金などの待遇は出向元の就業規則、労働時間や休日など労務提供に関するルールは出向先が適用されるのが一般的です。社宅も出向元に在籍している以上、出向元の福利厚生の一環として提供されるケースが多く見られます。
転籍(移籍出向)
転籍は、出向元との労働契約を解約し、転籍先と新たに労働契約を結ぶ形態で、原則として元の会社に戻ることは前提としていません。この場合、社宅を含む福利厚生は転籍先の制度が適用されるため、転籍元の社宅からは退去し、転籍先の制度に沿って住まいを手配し直すのが基本となります。
出向者の社宅は出向元・出向先のどちらが用意する?
出向者の社宅を「どちらが用意するか」について、法律上の決まりはなく、出向元と出向先が結ぶ出向契約のなかで自由に取り決めることができます。
実務上は、出向者が出向元に在籍したままである在籍出向の場合、社宅(借り上げ)の賃貸借契約は出向元(親会社など)が不動産会社と締結し、家賃相当額は出向先が負担するという方式がよく採用されています。出向者が出向元に在籍している以上、社宅は出向元の福利厚生として機能させたほうが管理しやすいためです。一方で、出向先の必要性が高いケースや長期の出向では、出向先が契約主体となることもあります。いずれの場合も、契約の名義・費用の流れをあらかじめ明確にしておくことが重要です。
出向者の社宅費用は誰が負担する?
費用負担の考え方の基本は、「その勤務によって便益を受けるのはどちらの会社か」という応益負担の原則です。出向者は出向先で労務を提供するため、出向先での勤務に伴って発生する費用は、原則として出向先が負担すべきものと考えられます。社宅家賃についても、出向先が負担する(または出向元が立て替えたうえで出向先が負担金として精算する)のが一般的です。
注意したいのは、本来出向先が負担すべき費用を、合理的な理由なく出向元がそのまま負担し続けた場合です。このケースでは、出向元から出向先への経済的利益の供与とみなされ、出向元に対して寄附金課税が行われるおそれがあります。費用負担の区分と金額は、出向契約書のなかで具体的に定めておくことが、税務リスクを避けるうえでも欠かせません。
出向者の社宅と給与課税(賃貸料相当額)
社宅を貸与する場合、従業員から受け取る家賃が一定額を下回ると、その差額が給与とみなされて所得税・住民税の課税対象になる点にも注意が必要です。これは出向者の社宅でも同じで、他社から借りて貸与する借り上げ社宅であっても考え方は変わりません。
国税庁の取り扱いでは、従業員から「賃貸料相当額」の50%以上を受け取っていれば、家賃との差額は給与として課税されません。賃貸料相当額は、次の(1)~(3)の合計額で計算します。
- (1)その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
- (2)12円 × その建物の総床面積(㎡)÷ 3.3(㎡)
- (3)その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%
反対に、社宅費用を出向先が全額負担し、出向者本人からまったく家賃を徴収しない場合や、徴収額が賃貸料相当額の50%未満の場合には、差額が給与として課税されます。出向者に無用な税負担が生じないよう、本人負担額の設定には注意しましょう。なお、役員が出向者となる場合は、従業員とは別の計算方法が適用されるため、個別の確認が必要です。
出向者の社宅で押さえておきたい実務ポイント
出向者の社宅をめぐるトラブルや税務リスクを避けるには、出向前の取り決めと書面化が何よりも重要です。社員食堂や社宅・寮などの福利厚生は従業員の労働環境に直結するため、出向元・出向先の双方で話し合い、次のような事項を出向契約書や出向規程に明記しておきましょう。
- 社宅の契約主体(出向元・出向先のどちらが賃貸借契約を結ぶか)
- 家賃・共益費・敷金など費用の負担区分と精算方法(出向負担金の範囲)
- 出向者本人から徴収する社宅使用料(賃貸料相当額の50%以上を目安に設定)
- 単身赴任手当や住宅手当など、他の手当との調整
- 出向期間の満了・帰任・転籍に伴う退去や住み替えの取り扱い
これらを曖昧にしたまま出向を開始すると、費用の押し付け合いや寄附金課税、出向者本人への予期せぬ給与課税といった問題につながりかねません。出向規程や社宅管理規定を整備し、あらかじめルールを共有しておくことが安心につながります。
出向者の社宅管理は代行サービスの活用も検討を
出向者の社宅は、契約主体・費用負担・課税判定・帰任時の手続きなど、通常の社宅よりも管理が複雑になりがちです。グループ会社間で頻繁に出向が発生する企業では、これらの管理業務が人事・総務の大きな負担となることも少なくありません。
そうした場合は、社宅管理代行会社の活用も選択肢です。物件の契約・更新・解約から家賃の支払い、費用精算、賃貸料相当額の算定サポートまで一括して任せることで、出向者の社宅管理にかかる手間とリスクを大きく減らせます。自社の出向体制に合った運用方法を検討してみてください。

